・中国政府による日本への渡航自粛要請の影響
・渡航自粛の要因となった政治的背景
・民泊業界がこの情勢を乗り越えるには、どのような対応が求められるか
2025年11月、中国政府が自国民に日本への渡航自粛を呼びかける発表をした直後から、関西を中心に民泊やホテルで中国人客の大量キャンセルが相次ぎました。大阪・西成区で民泊を営む林伝竜さんは、利用客の約6割を中国人が占めており、発表後わずか1週間で約500部屋(約1,000人)の予約がキャンセルになり、収益が約1,000万円減ると試算しています。東京でも春節需要を見込んで満室になっていた民泊施設の予約が、渡航自粛の呼びかけから1週間で全て取り消されたとの報告があります。これらは民泊事業者が中国市場にいかに依存していたかを示す象徴的なエピソードです。
中国人観光客の減少は宿泊業に限った話ではありません。観光バス会社では運行予定だった大型バスが次々とキャンセルされ、損失額は数千万円規模に達しています。大阪府内のホテル約20社でも、中国人の宿泊予約の50〜70%が取り消されるなど、インバウンド消費の比率が高い関西経済に大きな影響が出ています。
中国政府の発表には直接の法的拘束力はありませんが、国有企業の従業員や公務員は指示に従わざるを得ないため、事実上の渡航制限として機能しました。中国の大手航空会社は日本行き航空券の手数料なしキャンセルを発表し、旅行会社は日本向け商品販売を一時停止しました。
この「渡航自粛公告」が出された背景には、高市早苗首相の台湾有事に関する発言がありました。2025年11月7日、高市首相は国会で「台湾有事は日本の存立危機事態になり得る」と答弁し、中国側はこれを「内政への干渉」と強く批判しました。11月14日、駐日中国大使は日本外務省高官に対して正式に抗議し、同日夜には中国政府が日本への渡航を控えるよう国民に呼びかける公告を発表しました。
公告では「日本の指導者による挑発的言動が中国公民の安全に重大なリスクをもたらしている」と主張し、旅行会社や国有企業に日本旅行の中止を通知するよう求めました。このような政治的緊張が直接的な引き金となって、民泊や観光業に連鎖的なキャンセルが広がったのです。
民泊市場ではコロナ禍前から中国人観光客の存在感が大きく、2019年には訪日外国人の約3割を中国が占めていました。しかし、コロナ禍で中国の海外渡航は事実上ストップし、2023年に入っても回復は他国より遅れました。中国政府が海外団体旅行を再開し始めたのは2023年1月以降でしたが、日本は長らく対象国から外れ、ようやく8月に解禁されたばかりでした。それでも福島第一原発の処理水放出への反発などから反日感情が高まり、中国人宿泊者数の回復は鈍化したままです。
こうした経緯から、2025年の時点でも民泊や宿泊業は中国客の完全回復を待ち望んでいる状況でした。そこへ今回の渡航自粛要請が追い打ちをかけ、事業者の計画は大きく狂うことになりました。
中国政府による渡航自粛要請を受け、関西の民泊市場では中国人観光客のキャンセルが相次ぎましたが、MBネクストが運営する西九条の民泊施設では、こうした影響は限定的でした。むしろ予約状況は安定しており、時期によっては稼働率が上向く場面も見られています。
この背景には、中国人団体旅行への依存度がもともと低く、主な利用者層が国内客やは欧米(ヨーロッパ、オーストラリア、ジョージア...)などの個人旅行者、特に家族・グループ客で構成されていた点があります。政治的要因による急激な需要変動を受けにくい構造が、結果としてリスク耐性の高い運営につながりました。
西九条の民泊は、USJまで電車で1駅という立地を生かし、家族や複数人での滞在を前提にした一棟貸しの設計となっています。寝室数の多さや広いリビング、サウナやプロジェクターといった設備は、「宿泊そのものを楽しみたい」というニーズと相性が良く、価格競争や国籍依存に陥りにくい商品設計です。
加えてUSJだけでなく京都府、奈良県、兵庫県など関西の他観光地へのアクセスも良く、結果として中国客減少という逆風の中でも、安定した集客を実現しました。この事例は、民泊運営において特定国への依存を避け、明確なターゲットと体験価値を設計することの重要性を示しています。
・中国政府による渡航自粛要請により、日本の民泊業界や観光業界は予約のキャンセルが相次いでいる状況です。
・その背景には、高市首相による台湾有事に関する発言がありました。中国政府はこの発言を強く批判し、日本への渡航自粛の呼びかけに繋がりました。
・影響は限定的で、いずれは緩和されていくとの見方もありますが、特定の国に依存しないビジネスモデルを構築することが必要になると予想されます。
今回の渡航自粛要請は、高市首相の台湾有事発言という政治的な出来事をきっかけに、中国政府が外交圧力の一環として自国民の旅行行動を規制したことに端を発しています。民泊をはじめとする観光関連業界にとっては痛手ですが、インバウンド市場自体は多様化が進んでいます。これを機に依存構造を見直し、持続的に選ばれる観光地づくりやサービス開発を進めていくことが求められます。